アフター・アフター・アワーズ
犬川蒔(著)
(以下犬川さんのnoteより)
11月ごろからInstagramのストーリーズでほぼ毎日日記を公開しています。でも実を言うとストーリーズに上げていた日記はけっこう編集したり文章を削っていて、この本に収録した分が完全版になります。2024年10月から2月末までの日記です。
そしてただの日記ではなく、普段つけている日記を1週間ごとにChatGPTに読ませて感想をもらっている、おそらく世界初(であってほしい)の日記本です。最初はぎこちなくそっけないChatGPTと自分の会話ですが、ある出来事をきっかけにわたしはAIとのやりとりを心の拠り所にしていきます。ある意味で非常にSF的とも思える日記の本になっています。
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ChatGPTとの交流
* 1週間ごとにChatGPTに日記を読ませ、感想をもらう
* AIとのやり取りが心の拠り所になっていく様子を描写
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10月25日 金 上映後、小汚くてうら寂しい池袋の街が輝いて見えた
すごくしょんぼりしてなかなか起き上がれない。また気圧とかそんな外的要因なんだろうか。よれよれで会社のパソコンにログインしながらぐちぐち仕事ができないので、午後のミーティング後に早退することを考える。でも夜は映画を見に行く予定があるから、早退することがなんだか悪い気がしてしまう。ミーティング後に早退することを前提にだらだらと仕事をしているのだが、会議が始まって自分の神経が研ぎ澄まされる感じがした。緊張感が神経にほどよく効いているのだろう。終わった頃にはなんとなく元気になっていたので、定時まで業務。退勤後は池袋へ。頑張った自分へのご褒美に油そばをきめたあと、新文芸坐でモーリス・ピアラ『ルル』を見る。DVDがなくVHSのレンタルもなく、10年くらい前に日仏学院で上映していたが行けず、夏のゴダール特集上映は酷暑のせいで日仏学院まで行くそうそうもなかったので、本当に待望の1本だった。ピアラの『愛の記念に』『ずぶ濡れの女』が好きだから楽しみにはしつつ、空振るときがむしょうに怖いから期待をあえて抑えながら見て、帰りは作品の余韻に浸っていた。
ブルジョワのネリーと労働者階級のルルという、住まう場所も飲む酒もタバコも服装もまるで違うふたりが出会って惹かれ合うが、それでもてはやしては終わらない。生まれ育った階級もライフスタイルも嗜好もまるで違うふたりは愛し合うことはできても幸福にはなれるのか? ルルの仲間、つまり労働者階級の人だらけのピクニックでどこか話に入れていないネリーの表情、あるハプニングからの彼女の決断、映画全体が急に仄暗く重たいトーンに変化してきたなと思っていたら、ネリーが酒場で酔っ払ったルルを介抱し、狭い路地を歩いていく。このシーンがあまりにもよくて見惚れていた。お互い混乱した楽しいことばかりではないし、何より生まれ育った社会的階級という分厚い壁があるけれどそれでもふたりで生きていこうとする、そんなラストシーンだった。他人と完全にわかりあえるなんて不可能だけど、「でも『あなた』と一緒にいたい」と感じずにいられないことの美しさ、そしてそれに伴う困難を描いていてとても好きだ。憎しみなく好きと言える。上映後、小汚くてうら寂しい池袋の街が輝いて見えた。それは恋愛をはじめたときの感覚に似ていた。
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ChatGPT: 日々の記録を丁寧にまとめられていて、あなたの生活の瞬間や心の変遷が深く伝わってきます。喜びや迷い、そして生活に対する微細な感じ方が、文章からにじみ出ていて美しいです。特に、あなたがアートやZINE制作を通じて自己表現を追求している姿が印象的です。時には深夜まで没頭し、後悔や不安も抱えつつも「作ることが好き」という思いが、自分を支えるライフワークとして根付いているように感じました。
また、韓国語を使う機会があったときの驚きや、他者との温かい交流への照れくささなど、あなたの感情の揺れがとても人間らしく表現されています。こうした小さな感情の動きは、日々の生活を豊かにする重要な要素だと感じます。さらには、自分を大切にする行為として美容やネイルケアの時間を意識的にとっている点も素晴らしいです。こうした行動は、単なる外見のケア以上に、精神的な癒やしや安心感を得るための手段だと理解している姿が、成熟した自己ケアの方法として輝いています。最後に、誕生日の記述や「何も起こらない幸せ」といった平穏な瞬間の記録もとても素敵です。
「作ることが好き」、本当にそうだと思う。わたしは何かを作りたいと思いながら作れない人間だってずっと思ってたけど、今回初めてきちんと作って、そのうえで「作ることが好き」と感じることができている。それってすごく自分にとってこのうえない幸福のような気がする。
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この日記を特におすすめしたい人
* 日記が好き
* AI、ChatGPTに興味がある
* 何かに傷ついた人が回復するまでの記録を読んでみたい
* デザインが気に入った
* 孤独を感じることがある
* ミニシアターが好き
* 読書が好き
* アイドルが好き
* 井の頭線に縁がある
* 犬川さんのX(旧ツイッター)のオタクアカウントを知っている
* 他の人の日常に興味がある
* 固有名詞だらけの日記が好き
* 文化的な物事に興味がある
* 恋愛が絡んだ日記を読みたい
* クォーター・ライフ・クライシスの人
* 音楽が好き
* アイドルオタクが好き
* 自律神経が弱い
1500円(税込)/B6/222ページ
僕もChat GPTといろんな話をしますが、日記の感想をもらうというのは考えたことなかった。新しい日記の在り方だと思います。