私の顔は誰も知らない

インベカヲリ★ (著)

"なぜ多くの女性は、これほどまでに偽りの姿で生きているのだろう"
膨大な数の女性の「個」に迫りポートレートを撮影してきた写真家の、初エッセイ&インタビュー集。抑圧的な社会構造について、そしてそのなかで生きる女性の、人間の幸福について考える。

『私の顔は誰も知らない』とは、社会に適応することを最優先するあまり、本来のパーソナリティが完全に隠れてしまったかつての私であり、似たような経験を持つ、多くの女性たちを表した言葉だ。(中略)学校教育では異端が排除され、社会に出れば、ルールに適応することを求められる。外から入ってくる価値観に振り回され、偽りの自分でしか生きることができなくなってしまう。自分の発言を黙殺し、まったく違う人間を演じることが当たり前になってしまうのだ。
ーー本文より

写真集『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』(共に赤々舎)、ノンフィクション『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA)など、写真と文筆を横断する作家、インベカヲリ★。両者の仕事に共通することは、対象の表面をなぞるのではなく、あくまでも「心」を捉えることにある。

こと写真においては、男性用グラビアにありがちな鑑賞的、消費的ではないポートレートが、写真業界および女性から圧倒的な支持を得て、今もなお撮影オファーが絶えない(2018年には第43回伊奈信男賞を、2019年には日本写真協会新人賞をそれぞれ受賞)。その理由は、撮影前に被写体から時間をかけて話を聞きとることで、その人自身の個人的な経験や考え方に焦点を合わせて、存在そのものを浮かび上がらせるからだ。

ただし撮影された写真には、普段とはまったく違う姿が写し出される。それは何故なのか、その落差には一体何が隠されているのか。

本書では、被写体や女性たちへのインタビューと、インべ自身の語りを通して、多くの女性が偽りの姿で生きざるを得ない、歪な社会構造を炙り出し、女性にとっての、ひいては人間にとっての幸福とは何なのかを考える。

このテーマ(偽りの姿)を体現したブックデザイン(セプテンバーカウボーイ/吉岡秀典による)にも注目。ぜひ手にとって確かめてほしい。

"抑圧、世間体、感情労働、そしてジェンダーとフェミニズム。うまく社会適応しているように見えるけれど、本当はしていないし、するつもりもない。たぶん理解されないから言わないだけ。そんな私たちの肖像"

著者について
1980年、東京都生まれ。写真家。短大卒業後、独学で写真を始める。編集プロダクション、映像制作会社勤務等を経て2006年よりフリーとして活動。13年に出版の写真集『やっぱ月帰るわ、私。』(赤々舎)で第39回木村伊兵衛写真賞最終候補に。18年第43回伊奈信男賞を受賞、19年日本写真協会新人賞受賞。写真集に、『理想の猫じゃない』(赤々舎/2018)、『ふあふあの隙間』(123のシリーズ/赤々舎/2018)がある。ノンフィクションライターとしても活動しており、「新潮45」に事件ルポなどを寄稿してきた。著書に『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA/2021)がある。本書は初のエッセイとなる。

出版社 ‏ : ‎ 人々舎
発売日 ‏ : ‎ 2022/5/16
言語 ‏ : ‎ 日本語
単行本 ‏ : ‎ 380ページ

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