SF映画のタイポグラフィとデザイン
デイヴ・アディ (著), 篠儀直子 (翻訳)
出版社 : フィルムアート社
発売日 : 2020/8/18
言語 : 日本語
大型本 : 268ページ
SF映画において、タイポグラフィとデザインはどのように「未来」を視覚化してきたのか。
『2001年宇宙の旅』以降のSF映画作品を題材に、SF映画のストーリーテリングとデザインの関係を探る新たな試み。
現実に基づきつつ現実とは異なる世界を描くとき、
あるいは現実と地続きのようでありつつも飛躍した未来の情景を描こうとしたとき、
現代劇に劣らずその時空を説得力のあるものとして見せるために、
タイポグラフィとデザインはどのような役割を果たしてきたのだろうか。
本書は『2001年宇宙の旅』をSF映画におけるストーリーテリングとヴィジュアル・デザインの映画的ビッグバンとして位置づけ、
そこでのタイポグラフィとデザインの飛躍的な進化を分析の上、
それを土台に以後のSF映画作品がいかにして説得力のある未来像を描き出してきたのかについて分析する。
【本書で取り上げられる主要SF映画作品】
『2001年宇宙の旅』
『エイリアン』
『スター・トレック』
『ブレードランナー/ファイナル・カット』
『トータル・リコール』
『ウォーリー』
『月に囚われた男』
デザインやタイプフェイスによって形作られた視覚的なストーリーテリングについての詳細な考察とともに、
そこで用いられた書体の発展の歴史的背景、映画で使用された特別な書体についての解説、
SF映画のデザインがどのように異なる作品間に関係性を築き、物語世界を創造してきたかの動向について解説している。
分析対象はタイポグラフィのみならず、プロダクション・デザイン(映画美術)、グラフィック、建築の分野にまで及んでいる。
また本書で扱われるSF映画の制作に携わったマイク・オクダ(スター・トレック)、
ポール・ヴァーホーベン(トータル・リコール)、ラルフ・エッグルストンとクレイグ・フォスター(ピクサー)ら、
天才的なクリエイターたちのインタビューも収録。
タイポグラフィとデザインが、いかにしてわれわれを惹きつけてやまない近未来的ヴィジョンを作り出してきたかについて、本書はこれまでになかった知見を与えてくれる機会となるだろう。
デザインに関心のある人ばかりでなく、SF映画を愛するすべての人に多くの新たな発見をもたらすだろう一冊。
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2013年、最悪の発見をした。
運命の数ヶ月間、わたしはお気に入りのSF映画のなかに、まったく同じタイプフェイス(書体)を次から次へと見つけはじめた。
一度見えてしまったら、もう見えないわけにはいかない。
どこを見ようと、あるいは何を観ようと、Eurostile Bold Extendedが̶̶あらゆるタイプフェイスのなかで最もSF的なタイプフェイスが̶̶わたしを見つめ返してくる。
わたしは取り憑かれてしまった。
(中略)
わたしはドメインネームをひとつ登録し、この幅広で太字のタイプフェイスが、
未来のヴィジョンを作り出すためにどのように使用されてきたのか、探究に乗り出した。
その成果が、typesetinthefuture.comに投稿した、『2001年宇宙の旅』のデザインとタイポグラフィに関する5000語の論考である。
調査の結果わかったのは、SF映画は『2001年』の前にも存在していたけれど、
『2001年』の世界構築とディテールへの細心の配慮によって、SF映画のデザインと未来性に対するわれわれの期待が、以後永遠に変わってしまったということだ。
(そしてまた、もっと論考を書く必要があることもわかった)。
次に研究する映画を選ぶため、基準をふたつ定めた。
デザインとタイポグラフィによって説得力のある世界を構築していること。未来を舞台にしていること。
『2001年』論のあと、『月に囚われた男』『エイリアン』『ブレードランナー』の分析がただちに続き、論考をひとつ書くごとに、未来的フォントの世界のさらに奥深くへとわたしは導かれていった。
――本書「はじめに」より抜粋