さみしさは彼方: カライモブックスを生きる
奥田 直美 (著), 奥田 順平 (著)
南九州ではサツマイモをカライモと呼ぶ。水俣、石牟礼道子への思いを胸に、京都に古本屋を開いたふたりは、それぞれがひとりであることをわかちあいながら、家族で店を営み、言葉によって自身に降り、世界への希望をつなぐ。試行錯誤の道のりと、石牟礼道子旧宅移転に臨む勇気。生きることへのほんとうに向かう随想集。
ここに不知火海をつくりたい。光をみたい。
……ときに赤裸々で恥ずかしくもあるけれど、どうしてこういうものを書いてきたのかと考えてみれば、毎日二四時間をともにして仕事をし育児をし、社会の動きに揺さぶられながら生活を回していくなかで、自身の思いや状況の整理をすることが、それを切り抜けるのにどうしても必要だったからだ。
わたしたちの普段の生活は、口に出された言葉のやりとりで成り立っているけれど、たとえ自分自身についてであっても、口から出る言葉ではたどりつけない場所があり、直視できないひずみがあるのだと思う。わたしたちが個として、家族として生きてくためには、ときに言葉によって自身に降りていく必要があり、これらはそのために書いた文章だ。
だからやっぱりこの記録は、古本屋のそれではなく、わたしたちカライモブックスの日常を映したものだとしか言いようがない。日々に流されながらも泳いでいくために、降りてつかんでみた言葉なのだと思う。
「はじめに 流されながらも泳いでいくために」より
カライモブックス 新本も売っている古本屋.2009 年に京都市上京区で開店.カライモとは,南九州でのサツマイモの呼び名.作家・石牟礼道子さんの世界に惹かれて,京都から遠く不知火海に思いを馳せカライモブックスと名付ける.2019 年に同じ上京区に移転.2023 年に水俣市に移転予定。
奥田直美(おくだ・なおみ) 1979 年生まれ,東京で幼少期を過ごしたのち,京都府亀岡市で育つ.出版社勤務のかたわら,順平と水俣に通いはじめる.退職後二人でカライモブックスを開店.
奥田順平(おくだ・じゅんぺい) 1980 年京都市に生まれ育つ.1998 年から無職とアルバイトの反復.2006 年から水俣にいきはじめる。
出版社 : 岩波書店
発売日 : 2023/2/20
言語 : 日本語
単行本 : 182ページ